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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

「お米さん、……折入つて、お前さんに頼みがある。」と言ひかけて、初々しく一寸俯向くのを見ると、猛然として、喜多八を思ひ起こして、我が境は一人笑つた。「はゝゝ、心配な事ではないよ。――お庇で腹按配も至つて好く成つたし、――午飯を抜いたから、晩には入合せに且つ食ひ、大に飲むとするんだが、いまね、伊作さんが渋苦いをして池を睨んで行きました。何うも、鯉のふとり工合を鑑定したものらしい……屹と今晩の御馳走だと思ふんだ。――昨夜の鶫ぢやないけれど、何うも縁あつて池の前に越して来て、鯉と隣附合ひに成つて見ると、目の前から引上げられて、俎で輪切は酷い。……板前の都合もあらうし、また我がまゝを言ふのではない。……

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