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 『化鳥』 青空文庫

橋板《はしいた》がまた、がツたりがツたりいつて、次第に近《ちか》づいて来る、鼠色《ねづみいろ》の洋服で、釦《ぼたん》をはづして、胸を開けて、けば/\しう襟飾《えりかざり》を出した、でつぷり紳士で、胸が小さくツて、下腹《したつぱら》の方が図《づ》ぬけにはずんでふくれた、脚の短い、靴《くつ》の大きな、帽子《ばうし》の高い、顔の長い、鼻のい、其は寒いからだ。そして大跨《おほまた》に、其逞《たくまし》い靴《くつ》を片足づゝ、やりちがへにあげちやあ歩行《ある》いて来る、靴《くつ》の裏のいのがぽつかり、ぽつかりと一ツづゝ此方《こつち》から見えるけれど、自分じやあ、其爪《つま》さきも分りはしまい。何でもあんなに腹のふくれた人は臍《へそ》から下、膝から上は見たことがないのだとさういひます。あら! あら! 短服《チツヨツキ》に靴《くつ》を穿いたものが転《ころ》がつて来るぜと、思つて、じつと見て居ると、橋のまんなかあたりへ来て鼻眼鏡《はなめがね》をはづした、〓《しぶき》がかゝつて曇《くも》つたと見える。

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