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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 雪の頂から星が一つ下つたやうに、入相の座敷に電燈の点いた時、女中が風呂を知らせに来た。「すぐに膳を。」と声を掛けて置いて、待構へた湯どのへ、一散――例の洗面所の向うの扉を開けると、上場らしいが、ハテ真暗である。いやいや、提灯が一燈ぼうと薄白く点いて居る。其処にもう一枚扉があつて閉つて居た。その裡が湯どのらしい。
「半作事だと言ふから、まだ電燈が点かないのだらう。おゝ、二つの紋だな。大星だか由良之助だかで、鼻を衝く、鬱陶しいの紋も、此処へ来ると、木曽殿の御寵愛を思出させるから奥床しい。」

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