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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 贋探偵の銀平が出去りたる後、得右衛門は尚不審晴れ遣らねば、室《ゐま》の内を見廻《めぐ》るに、畳に附《つき》たる血の痕あり。一箇処のみか二三箇処。此処彼処にぼた/\と溢《こぼ》れたるが、敷居を越して縁側より裏庭の飛石に続き、石燈篭の辺《あたり》には断《た》えて垣根の外に又続けり。こは怪《あやし》やと不気味ながら、其血の痕を拾ひ行くに、墓原を通りて竹薮を潜り、裏手の田圃の畦道より、南を指して印されたり。
 一旦助けむと思ひ込みたる婦人《をんな》なれば、此儘にて寐入らむは口惜し。このの跡を慕ひ行かば其行先を突留め得べきが、単身《ひとりみ》にては気味悪しと、一まづ家に立帰りて、近隣の壮佼《わかもの》の究竟《くつきよう》なるを四人ばかり語らひぬ。

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