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 『高野聖』 泉鏡花を読む

「やあ、人参と干瓢ばかりだ。」と粗忽ツかしく絶叫した。私の顔を見て旅僧は耐え兼ねたものと見える、吃々と笑ひ出した、固より二人ばかりなり、知己にはそれから成つたのだが、聞けば之から越前へ行つて、派は違ふが永平寺に訪ねるものがある。但し敦賀に一泊とのこと。
 若狭へ帰省する私もおなじ処で泊らねばならないのであるから、其処で同行の約束が出来た。
 渠は高野山に籍を置くものだといつた、年配四十五六、柔和な何等の奇も見えぬ、可懐しい、おとなしやかな風采で、羅紗の角袖の外套を着て、白のふらんねるの襟巻をしめ、土耳古形の帽を冠り、毛糸の手袋を嵌め、白足袋に日和下駄で、一見、僧侶よりは世の中の宗匠といふものに、其よりも寧ろ俗歟。

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