検索結果詳細


 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 が、いつでも構はぬ。……他が済んで、湯のあいた時を知らせて貰ひたいと言つて置いたのである。誰も入つては居まい。とに角と、解きかけた帯を挟んで、づツと寄つて、其の提灯の上から、扉にひつたりと頬をつけて伺ふと、袖のあたりに、すうーと暗く成る、蝋燭が、またぼうと明く成る。影が痣に成つて、巴が一つ片頬にるやうに陰気に沁込む、と思ふと、ばちやり……内端に湯が動いた。何の隙間からか、芬と梅の香を、ぬくもりで溶かしたやうな白粉の香がする。

 139/330 140/330 141/330


  [Index]