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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 見ると海鼠を裂いたやうな目も口もない者ぢやが、動物に違ひない。不気味で投出さうとするとずる/\と辷つて指の尖へ吸ついてぶらりと下つた、其の放れた指の尖から真赤な美しい血が垂々と出たから、吃驚して目の下へ指をつけてぢつと見ると、今折曲げた肘の処へつるりと垂懸つて居るのは同形をした、幅が五分、丈が三寸ばかりの山海鼠。
 呆気に取られて見る/\内に、下の方から縮みながら、ぶく/\と太つて行くのは生をしたゝかに吸込む所為で、濁つた黒い滑らかな肌に茶褐色の縞をもつた、疣胡瓜のやうなを取る動物、比奴は蛭ぢやよ。

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