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『高野聖』 泉鏡花を読む
呆気に取られて見る/\内に、下の方から縮みながら、ぶく/\と太つて行くのは生血をしたゝかに吸込む所為で、濁つた黒い滑らかな肌に茶褐色の縞をもつた、疣胡瓜のやうな血を取る動物、比奴は蛭ぢやよ。
誰が目にも見違へるわけのものではないが、図抜て余り大きいから一寸は気がつかぬであつた、何の畠でも、甚麼履歴のある沼でも、此位な蛭はあらうとは思はれぬ。
肘をばさりと振つたけれども、よく喰込んだと見えてなか/\放れさうにしないから不気味ながら手で抓んで引切ると、ぷつりといつてやう/\取れる、暫時も耐つたものではない、突然取つて大地へ叩きつけると、これほどの奴等が何万となく巣をくつて我ものにして居ようといふ処、予て其の用意はして居ると思はれるばかり、日のあたらぬ森の中の土は柔い、潰れさうにもないのぢや。
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