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 『日本橋』 青空文庫

「何の真似は出来ませいでも、せめて芸ごとで、勤まるようになれば可いと存じますよ。貴女なぞは何が何でも、そこが強味でいらっしゃいます。憂さも辛さも、糸に掛けて唄っておしまいなさりまし。芸ごとも貴女ぐらいにおなりなさると、人の楽みより御自分のお気晴しになりまする。……中にも笛は御名誉で、お十二三の頃でございましたろうか、お二階でなさいますのが、私ども一町隣、横町裏道|寂となって、高い山から谷底に響くようでござりましたよ。」
「ピイピイ笛の麦藁ですかえ、……あんな事を。」と、むら雲一重、薄衣の晴れたように、嬉しそうに打微笑む、月の眉の気高さよ。
「あの、時分の事を思いますと、夢のようでござります。この頃でも、御近所だと時々聞かれますのでござりましょうがな。」

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