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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 そのあわれさに堪えかねて、今ほども申しました、児を思うさえ恋となる、天上の規《のり》を越えて、掟を破って、母君が、雲の上の高楼《たかどの》の、玉の欄干にさしかわす、桂の枝を引寄せて、それに縋って御殿の外へ。
 空に浮んだおからだが、下界から見る月の中から、この世へ下りる間には、雲が倒《さかさま》に百千万千、一億万丈の滝となって、唯どうどうと底知れぬ下界の霄《そら》へ落ちている。あの、その上を、唯一条、霞のような御裳《おすそ》でも、撓《たわわ》に揺れる一枝の桂をたよりになさる危《あぶな》さ。

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