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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

   みだれし風采《とりなり》恥かしや、早これまでと思うらん。落した手毬を、女の童の、拾って抱くのも顧みず、よろよろと立かかった、蚊帳に姿を引寄せられ、褄のこぼれた立姿。
 屋の棟熟《じっ》と打仰いで、
 「あれ、あれ、雲が乱るる。――花の中に、母君の胸が揺ぐ。おお、最惜《いとお》しの御子に、乳飲まそうと思召《おぼしめ》すか。それとも、私が挙動《ふるまい》に、心騒ぎのせらるるか。客僧方《あなたがた》には見えまいが、地の底に棲むものは、昼も星の光を仰ぐ。御姿かたちは、よく見えても、彼処は天宮、此処は地獄、言《ことば》といっては交わされない。

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