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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「魅入られたようになりまして、ぐっすり寝込みました嘉吉の奴。浪の音は耳馴れても、磯近へ舳《へさき》が廻って、松の風に揺り起され、肌寒うなって目を覚ましますと、そのお前様……体裁《ていたらく》。
 山へ上ったというではなし、たかだか船の中の車座、そんな事は平気な野郎も、酒樽の三番叟、とうとうたらりたらりには肝を潰して、(やい、此奴ら、)とはずみに引傾《ひっかた》がります船底へ、仁王立に踏ごたえて、喚いたそうにござります。

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