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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 山へ上ったというではなし、たかだか船の中の車座、そんな事は平気な野郎も、酒樽の三番叟、とうとうたらりたらりには肝を潰して、(やい、此奴ら、)とはずみに引傾《ひっかた》がります船底へ、仁王立に踏ごたえて、喚いたそうにござります。
 騒ぐな。
 騒ぐまいてや、やい、嘉吉、こう見た処で、二歩と一両、貴様に貸のない顔はないけれど、主人のものじゃ。引負をさせてまで、勘定を合わしょうなんど因業な事は言わぬ。場銭を集めて一樽買ったら言分あるまい。代物《だいもつ》さえ持って帰れば、何処へ売っても仔細はない。

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