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『龍潭譚』 青空文庫
といひずてに何地《いずち》ゆくらむ。別れはそれにも惜しかりしが、あと追ふべき力もなくて見おくり果てつ。指す方もあらでありくともなく歩をうつすに、頭《かしら》ふらふらと足の重たくて行悩む、前に行くも、後ろに帰るも皆見知越《みしりごし》のものなれど、誰も取りあはむとはせで往きつ来りつす。さるにてもなほものありげにわが顔をみつつ行くが、冷かに嘲るが如く憎さげなるぞ腹立しき。おもしろからぬ町ぞとばかり、足はわれ知らず向直りて、とぼとぼとまた山ある方にあるき出しぬ。
けたたましき跫音《あしおと》して鷲掴《わしづかみ》に襟を掴むものあり。あなやと振返ればわが家の後見《うしろみ》せる奈四郎といへる力逞ましき叔父の、凄まじき気色《けしき》して、
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