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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 さては下枝は得三が推量通り、再び帰りしに相違なからむ。其は其にて可いとして、少時《しばらく》なりとも下枝を蔵匿《かくまひ》たる旅店の亭主、女の口より言ひ洩して主人を始め我《おれ》までの悪事を心得居らむも知れず。遁がしは遣らじ、と矢庭に門の扉を開けて、無手《むず》と得右衛門の手を捉へ、「婦人《をんな》は居るから逢はしてくれる、さあ入れ。と引入れて、門の戸はたと鎖《さ》しければ、得右衛門はおど/\しながら、八蔵を見て吃驚《びつくり》仰天、「やあ此方は先刻《さつき》の、「うむ、用がある此方《こつち》へ来いと、力任せに引立てられ、鬼に捕《と》らるゝ心地して、大声上げて救ひを呼べど、四天王の面々は此時既に遁げたれば、誰も助くる者無くて、哀《あはれ》や擒《とりこ》となりにけり。

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