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 『婦系図』 青空文庫

 阿嬢《おじょう》は、就中活溌に、大形の紅入友染の袂《たもと》の端を、藤色の八ツ口から飜然《ひらり》と掉《ふ》って、何を急いだか飛下りるように、靴の尖《さき》を揃えて、トンと土間へ出た処へ、小使が一人ばたばたと草履穿《ばき》で急いで来て、
「ああ酒井様。」
 と云う。優等生で、この容色《きりょう》であるから、寄宿舎へ出入《ではい》りの諸商人《しょあきんど》も知らぬ者は無いのに、別けて馴染《なじみ》の翁様《じいさま》ゆえ、いずれ菖蒲《あやめ》と引き煩らわずに名を呼んだ。

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