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『龍潭譚』
青空文庫
「ま、やつと取返したが、縄を解いてはならんぞ。もう眼が血走つてゐて、すきがあると駈け出すぢや。魔《エテ》どのがそれしよびくでの。」
と戒めたり。いふことよくわが心を得たるよ、しかり、隙だにあらむにはいかでかここにとどまるべき。
「あ。」とばかりにいらへて姉上はまろび入りて、ひしと取着きたまひぬ。ものはいはでさめざめとぞ泣きたまへる、おん情《なさけ》手にこもりて抱かれたるわが胸絞らるるやうなりき。
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