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 『龍潭譚』 青空文庫

 おもての方さざめきて、何処《いずく》にか行きをれる姉上帰りましつと覚し、襖いくつかぱたぱたと音してハヤここに来たまひつ。叔父は室の外にさへぎり迎へて、
 「ま、やつと取返したが、縄を解いてはならんぞ。もう眼が走つてゐて、すきがあると駈け出すぢや。魔《エテ》どのがそれしよびくでの。」
 と戒めたり。いふことよくわが心を得たるよ、しかり、隙だにあらむにはいかでかここにとどまるべき。

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