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 『薬草取』 青空文庫

「馬士《まご》にも、荷担夫《にかつぎ》にも、畑打《はたう》つ人にも、三人《にん》二人《にん》ぐらいずつ、村一つ越しては川沿《かわぞい》の堤防《どて》へ出るごとに逢ったですが、皆《みんな》唯《ただ》立停《たちどま》って、じろじろ見送ったばかり、言葉を懸ける者はなかったです。これは熨斗目《のしめ》の紋着振袖《もんつきふりそで》という、田舎に珍《めずら》しい異形《いぎょう》な扮装《なり》だったから、不思議な若殿、迂濶《うかつ》に物も言えないと考えたか、真昼間《まっぴるま》、狐が化けた? とでも思ったでしょう。それとも本人逆上返《のぼせかえ》って、何を言われても耳に入らなかったのかも解《わか》らんですよ。
 ふとその渡場《わたしば》の手前で、背後《うしろ》から始めて呼び留めた親仁《おやじ》があります。兄《にい》や、兄《にい》やと太い調子。
 私は仰向《あおむ》いて見ました。

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