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 『薬草取』 青空文庫

 ふとその渡場《わたしば》の手前で、背後《うしろ》から始めて呼び留めた親仁《おやじ》があります。兄《にい》や、兄《にい》やと太い調子。
 私は仰向《あおむ》いて見ました。
 ずんぐり脊《せ》の高い、銅色《あかがねいろ》の巌乗造《がんじょうづくり》な、年配四十五、六、古い単衣《ひとえ》の裾《すそ》をぐいと端折《はしょ》って、赤脛《からずね》に脚絆《きゃはん》、素足に草鞋《わらじ》、かっと眩《まばゆ》いほど日が照るのに、笠は被《かぶ》らず、その菅笠《すげがさ》の紐に、桐油合羽《とうゆがっぱ》を畳《たた》んで、小さく縦《たて》に長く折ったのを結《ゆわ》えて、振分《ふりわ》けにして肩に投げて、両提《ふたつさげ》の煙草入《たばこいれ》、大きいのをぶら提《さ》げて、どういう気か、渋団扇《しぶうちわ》で、はたはたと胸毛を煽《あお》ぎながら、てくりてくり寄って来て、何処《どこ》へ行《ゆ》くだ。

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