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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 いや蒼空の下へ出た時には、何のことも忘れて、砕けろ、微塵になれと横なぐりに体を山路へ打倒した。それでからもう砂利でも針でもあれと地へこすりつけて、十余りも蛭の死骸を引くりかへした上から、五六間向うへ飛んで見顫をして突立つた。
 人を馬鹿にして居るではありませんか。あたりの山では処々茅蜩殿、血と泥の大沼にならうといふ森を控へて鳴いて居る、日は斜、溪底はもう暗い。
 先づこれならば狼の餌食になつても其は一思に死なれるからと、路は丁度だらだら下なり、小僧さん、調子はづれに竹の杖を肩にかついで、すたこら遁げたわ。

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