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 『薬草取』 青空文庫

 御山《おやま》へ花を取りに、と返事すると、ふんそれならば可《よ》し、小父《おじ》が同士《どうし》に行って遣《や》るべい。但《ただし》、この前《さき》の渡《わたし》を一つ越さねばならぬで、渡守《わたしもり》が咎立《とがめだて》をすると面倒じゃ、さあ、負《おぶ》され、と言うて背中を向けたから、合羽《かっぱ》を跨《また》ぐ、足を向うへ取って、猿《さる》の児《こ》背負《おんぶ》、高く肩車に乗せたですな。
 その中《うち》も心の急《せ》く、山はと見ると、戸室《とむろ》が低くなって、この医王山が鮮明《あざやか》な深翠《ふかみどり》、肩の上から下に瞰下《みおろ》されるような気がしました。位置は変って、川の反対《むこう》の方に見えて来た、なるほど渡《わたし》を渡らねばなりますまい。

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