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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

「恋しい懐しい方があつて、そしてどうしても逢へないで、夜も寐られないほどに思ひ詰めて、心も乱れれば気も狂ひさうになつて居りますものが、せめて肖たお方でもと思ふのに、此頃は恁うやつて此処等には東京からおいでなすつたらしいのも見えません処へ、何年ぶりか、幾月越か、フト然うらしい、肖た姿をお見受け申したとしましたら、貴下、」
 と手許に丈のびた影のある、土筆の根を摘み試み、
「爾時は……、而して何んですか、切なくつて、あとで臥つたと申しますのに、爾時は、どんな心持でと言つて可いのでございませうね。

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