検索結果詳細


 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 と胸を吐くと、さら/\さら/\と三筋に……恁う順に流れて、洗面所を打つ水の下に、先刻の提灯が朦朧と、半ば暗く、巴を一つ照らして、墨でかいた炎か、鯰の跳ねたかと思ふ形に点れて居た。
 いまにも電燈が点くだらう。湯殿口へ、これを持つて入る気で、境がこゞみ状に手を掛けようとすると、提灯がフツと消えて見えなくなつた。
 消えたのではない。矢張り是が以前の如く、湯殿の戸口に点いて居た。此はおのづから雫して、下の板敷きの濡れたのに目の加減で、向うから影が映したものであらう。はじめから、提灯が此処にあつた次第ではない。境は、斜に影の宿つた水中の月を手に取らうとしたと同一である。

 176/330 177/330 178/330


  [Index]