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 『義血侠血』 青空文庫

 夜はすでに十一時に近づきぬ。磧《かわら》は凄涼として一箇の人影を見ず、天高く、露気《ろき》ひややかに、月のみぞひとり澄めりける。
 熱鬧《ねっとう》を極めたりし露店はことごとく形を斂《おさ》めて、ただここかしこに見世物小屋の板囲いを洩るる燈火《ともしび》は、かすかに宵のほどの名残《なごり》を留めつ。河は長く流れて、向山の松風静かに度《わた》る処、天神橋の欄干に靠《もた》れて、うとうとと交睫《まどろ》む漢子《おのこ》あり。

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