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『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む
消えたのではない。矢張り是が以前の如く、湯殿の戸口に点いて居た。此はおのづから雫して、下の板敷きの濡れたのに目の加減で、向うから影が映したものであらう。はじめから、提灯が此処にあつた次第ではない。境は、斜に影の宿つた水中の月を手に取らうとしたと同一である。
爪さぐりに、例の上り場へ……で、念のために戸口に寄ると、息が絶えさうに寂寞しながら、ばちやんと音がした。ぞツと寒い。湯気が天井から雫に成つて点滴るのではなしに、屋根の雪が溶けて落ちるやうな気勢である。
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