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『婦系図』 青空文庫
宿墨を洗う気で、楊枝の房を、小指を刎《は》ねて〓《むし》りはじめたが、何を焦《じ》れたか、ぐいと引断《ひっちぎ》るように邪険である。
ト構内《かまえうち》の長屋の前へ、通勤《つとめ》に出る外、余り着て来た事の無い、珍らしい背広の扮装《いでたち》、何だか衣兜《かくし》を膨らまして、その上暑中でも持ったのを見懸けぬ、蝙蝠傘《こうもりがさ》さえ携えて、早瀬が前後《あとさき》を〓《みまわ》しながら、悄然として入って来たが、梅の許なるお妙を見る……
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