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 『雛がたり』 青空文庫

 ここに、小さな唐草蒔絵の車があった。おなじ蒔絵の台を離して、轅《ながえ》をそのままに、後《うしろ》から押すと、少し軋んで毛氈の上を辷る。それが咲乱れた桜の枝を伝うようで、また、の霞の浪を漕ぐような。……そして、少しその軋む音は、幽《かすか》に、キリリ、と一種の微妙なる音楽であった。仲よしの小鳥が嘴を接《あわ》す時、歯の生際《はえぎわ》の嬰児《あかんぼ》が、軽焼《かるやき》をカリリと噛む時、耳を澄すと、ふとこんな音《ね》がするかと思う、――話は違うが、(ろうたけたるもの)として、(色白き児の苺くいたる)枕《まくら》の草紙は憎い事を言った。

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