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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 爪さぐりに、例の上り場へ……で、念のために戸口に寄ると、息が絶えさうに寂寞しながら、ばちやんと音がした。ぞツと寒い。湯気が天井から雫に成つて点滴るのではなしに、屋根の雪が溶けて落ちるやうな気勢である。
 ばちやん、……ちやぶりと微に湯が動く。と又得ならず艶な、しかし冷い、そして、にほやかな、霧に粉を包んだやうな、人膚の気がすツと肩に絡つて、項を撫でた。

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