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 『日本橋』 青空文庫

 その勢で二階へ帰って来ると、まだ顔も洗わんでおる俺を捉まえて、さあ、突然帰っておくれですだ。……芸者なら旦那が有ろうが、何が来ていようが構わない。それが可厭ならお止しだけれど、極った人が出来た上は、片時も、寝衣で胡坐かいた獣なんぞ、備前焼の置物だって身のまわり六尺四方は愚なこと、一つ内へは置けないから、即座帰れ。……云うて生真面目ですがい。
 俺、はじめは笑ったです。が、怒ったですだ。愚痴言うた。……頼みもしたですのだ。
 耳にも入れいで、(汚らわしい、こんな物を。)お前ん、お孝が蒲団を取って向うへ刎ねると、その時ですわい。かねて国手の事を俺|嗅ぎつけて知っとったで、お孝を威しつけてくりょうとな、前の夜さり、懐中に秘いておったですれども、顔を見ると、だらけて、はや、腑が抜けて、そのまんま、蒲団の下へ突込んで置いた、白鞘の短刀が転がって出たですが。

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