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 『日本橋』 青空文庫

 また始めに、お孝が俺のものになった時は、知ったほどの誰も彼も、不断云う、赤熊だことの、膃肭臍だことの、渾名を止めて、浦島だ、浦島だ、言うたもんで。俺も日本橋に竜宮が在る、と思うたですが。その筈ですだね。鯨に乗って泳ぎ込む程の不思議でのうて、熊がお孝と対座に、稲葉家の長火鉢の前に胡坐組めますまい。
 見得は言わねえですぞ。国手の前だ。
 死んだ媽は家附きで、俺は北海道へ出稼中、堅気に見込みを付けられて、中ぐらいな身代へ養子に入った身の上だがね。日の丸の旗を立って大船一|艘、海産物積んで、乗出いて、一花咲かせる目的でな、小舟町へ商会を開いた当座、比羅代りの附合で、客を呼ぶわ、呼ばれもしたので、一座に河岸の人が多かったでな。土地の芸者も顔が揃うた。二三度、その中に、国手、お前んも因果は遁れぬ、御存じですだ、滝の家の清葉とな、別嬪が居たでねえですか。」

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