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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 こは怪しやと思ひながら、開きたる壁の外を見るに、暗くてしかとは見分け難きが、壇階子《だんばしご》めきたるものあり。静に踏みて下り行くに足はやがて地に附きつ、暗さは愈々増《まさ》りぬれど、土平らにて歩むに易し。西へ西へと志して爪探りに進み行けば、蝙蝠《かはほり》顔に飛び違ひ、清水の滴々《したゝり》膚《はだへ》を透して、物凄きこと言はむ方無し。とかうして道のほど、一町ばかり行きける時、遙に梟の目の如き洞穴の出口見えぬ。
 此洞穴は比企ケ谷《やつ》の森の中にあり。さして目立つほどのものにあらねば、誰も這入つて見た者無し。
 下枝は穴を這出《はひい》でて始めて天日を拝したる、喜び譬へむものも無く、死なんとしたる気を替へて、誰か慈悲ある人に縋りて、身の窮苦を歎き訴へ、扶助《たすけ》を乞はむと思ひつる。そは夕暮のことにして、畦道より北の方、里ある方へぞ歩みたれ。

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