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 『日本橋』 青空文庫

「そりゃ、お千世さん、可いけれど、私にゃ手が出せなかった。意気地が無くって自分ながら口惜いのよ。……悪い事をするんじゃなし、誰に遠慮が、と思っても、何だかねえ、派手過ぎたようで差出たようで、ぱっとして、ただ恥しくって、どうにも駆出せなかったの。
 まあ、極りの悪い。……銀貨入を握った手が、しっとり汗になりました。」
 とその塩瀬より白い指に、汗にはあらず、紅宝玉の指環。点滴るごとき情の光を、薄紫の裏に包んだ、内気な人の可懐しさ。

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