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 『婦系図』 青空文庫

 誰も居なくなると、お妙はその二重瞼《ふたかわめ》をふっくりとするまで、もう、(その速力をもってすれば。)主税が上ったらしい二階を見上げて、横歩行《ある》きに、井の柱へ手をかけて、伸上るようにしていた。やがて、柱に背《せな》をつけて、くるりと向をかえて凭《もた》れると、学校から帰ったなりの袂《たもと》を取って、振《ふり》をはらりと手許へ返して、睫毛の濃くなるまで熟《じっ》と見て、袷と唐縮緬《めりんす》友染の長襦袢のかさなる袖を、ちゅうちゅうたこかいなと算《かぞ》えるばかりに、丁寧に引分けて、深いほど手首を入れたは、内心人目を忍んだつもりであるが、この所作で余計に目に着く。

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