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 『婦系図』 青空文庫

 と書生はまた、内々はがき便《だより》見たようなものへ、投書をする道楽があって、今日当り出そうな処と、床の中から手ぐすねを引いたが、寝坊だから、奥へ先繰《せんぐり》になったのを、あとで飛附いて見ると、あたかもその裏へ、目的物が出る筈の、三の面が一小間切抜いてあるので、落胆《がっかり》したが、いや、この悪戯《いたずら》、嬢的に極《きわま》ったり、と怨恨《うらみ》骨髄に徹して、いつもより帰宅《かえり》の遅いのを、玄関の障子から睨《ね》め透して待構えて、木戸を入ったのを追かけて詰問に及んだので、その時のお妙の返事というのが、ああ、私よ。と済《すま》したものだった。
 それをまたひとりでここで見直しつつ、半ば過ぎると、目を外らして、多時《しばらく》思入った風であったが、ばさばさと引裂《ひっさ》いて、くるりと丸めてハタと向う見ずに投《ほう》り出すと、もう一ツの柱の許に、その蝙蝠傘《こうもり》に掛けてある、主税の中折帽《なかおれ》へ留まったので、

 1888/3954 1889/3954 1890/3954


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