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 『婦系図』 青空文庫

 眉を顰《ひそ》めながら、その癖恍惚《うっとり》した、迫らない顔色《かおつき》で、今度は口ずさむと言うよりもわざと試みにククと舌の尖《さき》で音を入れる。響に応じて、コロコロと行《や》ったが、こっちは一吹きで控えたのに、先方《さき》は発奮《はず》んだと見えて、コロコロコロ。
 これを聞いて、屈《かが》んで、板へ敷く半纏の裙《すそ》を掻取《かいと》り、膝に挟んだ下交《したがい》の褄を内端《うちわ》に、障子腰から肩を乗出すようにして、つい目の前《さき》の、下の溜りに目を着けた。

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