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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 夢になら恋人に逢へると極れば、こりや一層夢にして了つて、世間で、誰其は?と尋ねた時、はい、とか何んとか言つて、蝶々二つで、ひら/\なんぞは悟つたものだ。
 庵室の客人なんざ、今聞いたやうだと、夢てふものを頼み切りにしたのかな。」
 と考へが道草の蝶に誘はれて、ふは/\と玉の緒が菜の花ぞひに伸びた処を、風もないのに、颯とばかり、横合から雪の腕、緋の襟で、つと爪先を反らして足を踏伸ばした姿が、真黒な馬に乗つて、蒼空を翻然と飛び、帽子の廂を掠めるばかり、大波を乗つて、一跨ぎに紅の虹を躍り越えたものがある。

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