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 『天守物語』 泉鏡花を読む

夫人 差上げません。第一、あとで気がつきますとね、久しく蔵込《しまひこ》んであつて、かび臭い。蘭麝《らんじゃ》の薫も何《なん》にもしません。大阪城の落ちた時の、木村長門守の思《おもひ》切つたやうなのだと可《い》いけれど、……勝戦《かちいくさ》のうしろの方で、矢玉の雨宿《あまやどり》をして居た、ぬくいのらしい。ご覧なさい。
亀姫 (針金の輝く裏を返す)ほんに、討《うちじに》をした兜ではありませんね。
夫人 だから、およしなさいまし、葛《くず》や、しばらくそこへ。

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