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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 普門品、大悲の誓願《ちかひ》を祈念して、下枝は気息奄々と、無何有の里に入りつゝも、刀尋段々壊と唱ふる時、得三は白刃を取直し、電光胸前に閃き来りぬ。此景此時、室外に声あり。「アカギサン、トクザウサン。」
 不意に驚き得三は今や下枝を突かむとしたる刀を控へて、耳傾くれば、「あかアぎさん、とくざうさん。」
 得三は我耳を疑ふ如く、耳朶《みゝたぶ》に手をあてて眉を顰めつ、傾聴すれば、慥に人声、「赤城様《さん》――得三様《さん》。」

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