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 『日本橋』 青空文庫

 葛木は五体が窘んだ。
 稲荷堂の、背裏から、もぞもぞと這出して、落ちた長襦袢に掛って、両手に掴んだ、葛木を仰ぎ見て、夥多たび押頂いたのは熊である。
 車夫の提灯が露地口を、薄黄色に覗くに引かれて、葛木はつかつかと出て、飜然と乗ると、楫を上げる、背に重量が掛って、前へ突伏すがごとく、胸に抱いた人形の顔を熟と視た。

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