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 『日本橋』 青空文庫

「いや、夜遁げ同然な俄発心。心よりか形だけを代えました青道心でございます。面目の無い男ですから笠は御免を蒙ります。……どこと申して行く処に当は無いので、法衣を着て草鞋を穿くと、直ぐに両国から江戸を離れて、安房上総を諸所|経歴りました。……今日は、薬研堀を通ってこっちへ。――今度は日本橋を振出しに、徒歩で東海道に向いますつもり。――以来は知らず、どこへ参っても、このあたりぐらい、名所古蹟はございませんな。」
 と云って、ほろりとして、手を挙げて茶盆を頂いて出て行く。
 人足繁き夕暮の河岸を、影のように、すたすたと抜けて、それからなぞえに橋になる、向って取附の袂の、一石餅とある浅黄染の暖簾を潜って、土間の縁台の薄暗い処で、折敷装の赤飯を一盆だけ。

 1992/2195 1993/2195 1994/2195


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