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 『日本橋』 青空文庫

 人足繁き夕暮の河岸を、影のように、すたすたと抜けて、それからなぞえに橋になる、向って取附の袂の、一石餅とある浅黄染の暖簾を潜って、土間の縁台の薄暗い処で、折敷装の赤飯を一盆だけ。
 その癖、新しい銀貨で釣銭を取って一石橋へ出た。もう日が暮れたのである。
 半ば渡った処、御城に向いた、欄干に、松を遠く、船を近く彳んで、凭掛ったが、熟として頬杖を支いて、人の往来も世を隔てたごとく、我を忘れた体であった。

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