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 『婦系図』 青空文庫

「はははは、事実ですよ。掏摸の手伝いをしたとかで、馬鹿野郎、東京には居られなくなって、遁げたんです。もうこちらへも暇乞《いとまごい》に来ましたが、故郷の静岡へ引込む、と云っていましたから、河野さんの本宅と同郷でしょう。御相談なさるには便宜かも知れません。……御随意に、――お引取を。」
 ああ、媒酌人《なこうど》には何がなる。黄色い手巾《ハンケチ》を忘れて、礼之進の帰るのを、自分で玄関へ送出して、引返して、二階へ上った、酒井が次のその八畳の書斎を開けると、そこには、主税が、膳の前に手を支いて、畏《かしこま》って落涙しつつ居たのである。夫人も傍《そば》に。

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