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 『婦系図』 青空文庫

 ああ、媒酌人《なこうど》には何がなる。黄色い手巾《ハンケチ》を忘れて、礼之進の帰るのを、自分で玄関へ送出して、引返して、二階へ上った、酒井が次のその八畳の書斎を開けると、そこには、主税が、膳の前に手を支いて、畏《かしこま》って落涙しつつ居たのである。夫人も傍《そば》に。
 先生はつかつかと上座に直って、
「謹、酌をしてやれ。早瀬、今のはお前へ餞別だ。」

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