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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 彼も此も一瞬時、得三は眼血走り、髪逆立ちて駈込みつ、猶予《ためら》ふ色無く柱に凭《よ》れる被《かづき》を被《かぶ》りし人形に、斬《きり》つけ突つけ、狂気の如く、愉快、愉快。と叫びける。同時に戸口へ顔を差出し、「城様、得三様。「やあ、汝《うぬ》は!と得三が、物狂はしく顧みれば、「光来《おいで》、光来《おいで》。此処まで光来《おいで》と、小手にて招くに、得三は腰に付けたる短銃《ピストル》を発射《はなつ》間も焦燥《もどか》しく、手に取つて投附くれば、ひらりとはづして遁出すを、遣らじものを。と此の度は洋燈《ランプ》を片手に追懸《おつか》けて、気も上の空何やらむ足に躓《つまづ》き怪《け》し飛びて、火影に見ればこはいかに、お藤を連れて身を隠せしと、思ひ詰めたる老婆お録、手足を八重十文字に縛《くゝ》られつ、猿轡さへ噛まされて、芋の如く転がりたり。

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