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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「夢処《どころ》でござりますか、お前様、直ぐに縊殺《しめころ》されそうな声を出して、苦しい、苦しい、鼻血が出るわ、目がまうわ、天窓《あたま》を上へ上げてくれ。やい、どうするだ、さあ、殺さば殺せ、漕がば漕げ、とまだ夢中で、嘉吉めは船にいる気でおります、よの。
 胴中の縄が弛んで、天窓《あたま》が地《つち》へ擦れ擦れに、倒《さかさま》になっておりますそうな。こりゃ尤じゃ、のう、たっての苦悩《くるしみ》。
 酒が上って、醒めずにいたりゃ本望だんべい、俺《わし》ら手が利かねえだに、もう些とだ辛抱せろ、とぐらぐらと揺り出しますと、死ぬる、死ぬる、助け船《引》と火を吹きそうに喚いた、とのう。

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