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 『日本橋』 青空文庫

 ト諸君はお竹蔵と云うのを御存じの筈と思う。あの屋根から、誰が投げて、どのがらくたに交ったか、二尺ばかりの蝋鞘が一口。蛇のごとく空に躍って、ちょうどそこへ来た、赤熊の額を尾でたたいて、ハタと落ちた。
 発奮で打ったか。前刻滝の家の二階で受けた怪我の、気の勢で留まっていたか。この時、額から垂々とが流れたが、それには構わないで、ほとんど本能的に、胸へ抱いた年弱の三歳の子を両手で抱えた。

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