検索結果詳細


 『薬草取』 青空文庫

 人心地《ひとごこち》もなく苦しんだ目が、幽《かすか》に開《あ》いた時、初めて見た姿は、艶《つやや》かな黒髪《くろかみ》を、男のような髷《まげ》に結んで、緋縮緬《ひぢりめん》の襦袢《じゅばん》を片肌《かたはだ》脱いでいました。日が経《た》って医王山へ花を採りに、私の手を曳《ひ》いて、楼《たかどの》に朱の欄干《てすり》のある、温泉宿を忍んで裏口から朝月夜《あさづきよ》に、田圃道《たんぼみち》へ出た時は、中形《ちゅうがた》の浴衣《ゆかた》に襦子《しゅす》の帯をしめて、鎌を一挺、手拭《てぬぐい》にくるんでいたです。その間《あいだ》に、媼《しろうば》の内《うち》を、私を膝に抱いて出た時は、髷《まげ》を唐輪《からわ》のように結《ゆ》って、胸には玉を飾って、丁《ちょう》ど天女《てんにょ》のような扮装《いでたち》をして、車を牛に曳かせたのに乗って、わいわいという群集《ぐんじゅ》の中を、通ったですが、村の者が交《かわ》る交《がわ》る高く傘を〓掛《さしか》けて練《ね》ったですね。

 206/283 207/283 208/283


  [Index]