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 『薬草取』 青空文庫

 村端《むらはずれ》で、寺に休むと、此処《ここ》で支度《したく》を替えて、多勢《おおぜい》が口々《くちぐち》に、御苦労、御苦労というのを聞棄《ききず》てに、娘は、一人の若い者に負《おんぶ》させた私にちょっと頬摺《ほおずり》をして、それから、石高路《いしだかみち》の坂を越して、賑《にぎや》かに二階屋《にかいや》の揃った中の、一番屋《や》の棟《むね》の高い家へ入ったですが、私は唯《ただ》幽《かすか》に呻吟《うめ》いていたばかり。尤《もっと》も姥《しろうば》の家に三晩《みばん》寝ました。その内も、娘は外へ出ては帰って来て、膝枕《ひざまくら》をさせて、始終集《たか》って来る馬蠅《うまばえ》を、払ってくれたのを、現に苦《くるし》みながら覚えています。車に乗った天女に抱かれて、多人数《たにんず》に囲まれて通《かよ》った時、庚申堂《こうしんどう》の傍《わき》に榛《はん》の木で、半《なか》ば姿を秘《かく》して、群集《ぐんじゅ》を放れてすっくと立った、脊《せい》の高い親仁《おやじ》があって、熟《じっ》と私どもを見ていたのが、確《たしか》に衣服を脱がせた奴と見たけれども、小児《こども》はまだ口が利けないほど容体《ようだい》が悪かったんですな。

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