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 『婦系図』 青空文庫

「戦《いくさ》だ、まるで戦だね。だが、何だ、帳場の親方も来りゃ、挽子《ひきこ》も手伝って、燈《あかり》の点《つ》く前《めえ》にゃ縁の下の洋燈《ランプ》の破《こわ》れまで掃出した。何をどうして可いんだか、お前《めえ》さん、みんな根こそぎ敲《たた》き売れ、と云うけれど、そうは行かねえやね。蔦ちゃんが、手を突込んだ糠味噌なんざ、打棄《うっちゃ》るのは惜《おし》いから、車屋の媽々《かかあ》に遣りさ。お仏壇は、蔦ちゃんが人手にゃ渡さねえ、と云うから、私《わっし》は引背負《ひっしょ》って、一度内へ帰《けえ》ったがね、何だって、お前さん、女人禁制で、蔦ちゃんに、采《さい》を掉《ふら》せねえで、城を明渡すんだから、煩《むず》かしいや。長火鉢の引出しから、紙にくるんだ、お前さん、仕つけ糸の、抜屑を丹念に引丸《ひんまる》めたのが出たのにゃ、お源坊が泣出した。こんなに御新造《ごしん》さんが気をつけてなすったお世帯だのにッて、へん、遣ってやあがら。

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